「僕に素直さを求めたのが間違いだったね」

「僕に素直さを求めたのが間違いだったね」

そう呟いたのは君にこれ以上僕を知って欲しくないから。


                  〜37℃の血液/37度の血液/三十七度の血液様よりお題を拝借。〜



起きたのはいつもより少し遅い時間帯だった。
太陽は燦々と強い光を窓から部屋へと差し込んでいる。
目覚めは悪くないが、どうにも起きる気分じゃなかった。
ふと、何か忘れているような気がして部屋を見渡してみる。
思い出せるはずもなく、軽く頭を振ってベッドに沈む。

「依頼をしたはずなんだが?」
「不法侵入って、犯罪って知ってる?」
「貴様に法が適用されてたまるか。」

そう言って見下ろしてくる相手は相当不機嫌なのだろう、顔自体は隠れてはいるが、
青筋がくっきり浮かんでいるのが纏っている雰囲気で分かる。
確かに依頼を受けていたのを忘れていたのは正直、申し訳ないと少なからず思ってはいたが、
相手の行動力には別の意味で敬意を表したいと思う。
だが、これだけは僕も少々苛立ちをおぼえる。

「とにかく、下で待っててくれないかな?」
「直ぐに準備しろよ、さもなければ・・・」
「わかってるって。」
「本当にわかってるんだろうな?」
「此処で君が着替えるのを待っていても構わないよ?だとして、明日
 には君の変態というあだ名には磨きがかかるだろうけど。それでも
 構わないならどうぞ?」

売り言葉に買い言葉ってこういうことを言うんだと実感する。
相手は少し驚いたように瑠璃色の瞳をいつもより大きく見開いて固まっていた。
そんな様子がいつも堂々としてふてぶてしさすら感じられる相手とは思えないほどだった。
そしてそれが面白くもあった。「どうするのさ?」と問えば、赤い顔をして部屋を勢いよく出て行った。
そんな翻ったマンをと見送りながら静かにベッドから抜け出す。
やはり今日の目覚めは悪くないと思う。

彼とであったのはつい昨日の話。どうやら仲間を探しているという。
関わるなと言いながら危なげな言動にこっちも気が気でないことくらい気づいて欲しい。
そんなこんなで、今日も彼の仲間を探す手伝いをすることになっていたらしい。
そんな約束を忘れていたのは確かに悪かったかもしれないと、
そんな事を思いながらいつもの服に袖を通して着替えていく。
お気に入りでもない赤い大きな帽子を被る。
どうやらサボテン君は日向ごっこでいつもの様な興味は無い様子。
いつもなら、着替えている途中に何か一言いってくるはずなのに、
今は静かに目を閉じて日差しを心地良さそうに当たっている。

「いって来るね。」

そう呟いたのは幼い頃からの癖。
サボテン君から言葉が返ってきたことは一度も無いのだけれど、
いわなければ落ち着かなくなるほど続けてきた習慣だった。
静かに部屋を出て一階に下りる階段に近づく。

「貴様、このお茶に何を混ぜた?」
「その辺の草。」
「そんなものが飲めると思っているのか!?」
「だって師匠がそれでいいって!!」
「ふざけるな!」

元気のよい声が飛んでいる一階に下りるのは少しだけ待とうと、
階段に腰を下ろして会話の行方を静かに聞いている。
出来立ての弟子である双子がこの家に居候になったのもつい最近の事だった。
そんなことを考えながら、この静かな家も無駄に五月蝿くなったと感じる。
しかしその感じに悪い気はしない。寧ろ何か温かいものを感じられる様な気がしていた。
会話も落ち着いたのか、一階に響いていた声は静まり返る。
そろそろ頃合かと下りようとしていつもの眩暈に襲われる。
今日に限っては起こらないだろうと根拠もなく思っていたのにと自分の甘さに苦笑しか零れない。
この階段は木製で結構丈夫に出来ているのは他でもない、自分が一番良く知っていることだった。

痛みに目を閉じて、落ちた後の事を考える。あの綺麗な瑠璃色の瞳と目が会った時に
何を一番最初に言ってやればいいのか、そんなことを呑気に考えた。
そんな自分はまだ寝ぼけているのかもしれなかった。

最初のステップは両手を翳してかわす、そして滑り台を下りるような格好で落ちていくことになる。
勢いをつけたお蔭で数ステップを避けることも出来たが、それでもそれからの痛みを考えると、
瞳を開けるのは面倒な気がして閉じたまま落ちていく。
そして来るであろう痛みを待った。
しかし痛みは何時まで経ってもこなかった。
そしてそのかわり痛みの代わりに腕をしっかりと掴まれた温もりと、
何かに柔らかいものが自分を包み込んだ気がしてゆっくりと目を開けてみる。
其処には今しがた見ていたマントと、独特のデザインの服が目に映る。
そしてそれがどんどん近づいて、自分の頭が相手の肩に当たったのが分かった。
赤い大きめの帽子がパフンと小さな音をたてる。
そして勢いよく回れた腕が腰にしっかりとし当てて体勢が固定された。
そのお蔭でそれ以上の痛みはなった。
しかし掴まれた腕の痛みと、腰に回れた腕の強い痛みに自分の口からは少々唸り声が上がる。

「大丈夫なのか?」
「あぁ。いたって普通。」
「この状況でか?」
「・・・・・うるさい。」

流石にこれ以上の文句が思い浮かばなかったわけではなかったが、
依頼を忘れていたということもあって、これ以上は何も言ってやろうとは思わなかった。
自然と力が抜けていく腕を掴んだ手が離れていく。
そして腰に回されたても解放される。降り立ったのは一階までほんの数ステップのところだった。
相手は溜息をつきながら、何か一人言を言っているようだったが、自分には興味のないことだった。

「師匠、大丈夫ですか?」
「あぁ。いたって普通。」
「どこかに行くの?」
「まぁね、バドとコロナは留守番ね。」
「えぇ〜!!」

予想していたバドの不満の声にどうしたものかと、
腕組をして不機嫌そうな小さな弟子に悪戯めいた思考をめぐらす。
そうしていると、不意に背後にいた気配が直ぐ其処まで近づいていることに気付く。
瞬時に移動して相手が伸ばしてきた手は自分に触れることなく空を切る。
そんな自分の動きは想定内だったのか、視線だけはしっかりと此方に向けられる。

「まずは、俺に礼の一つでも言ったら如何だ?」
「そうだね・・。」
「で、言うことは?」

起こってはいない。しかし不機嫌に違いない表情の相手を見据える。
何と言えばいいのかはわかっている。
しかしそんなに簡単に言ってやる様な自分ではなかった。
満遍の笑みを浮かべてやる。
それがせめてものお礼とでも言うように。

「僕に素直さを求めたのが間違いだったね」

そう言って颯爽と家を後にする。
その後ろで固まっている瑠璃色の瞳をした青年の姿は滑稽なことこの上なかった。
精悍で整った顔はけして格好悪くない。
むしろ格好いいという部類に入るのかもしれない。
そんな相手のそんな姿に自然と口元が緩む。
そんな自分の事など知りもしない青年が切れたのは言うまでもない。

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月影凛冥

Author:月影凛冥
サヨナラを繰り返す人。

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